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遺留分侵害額請求訴訟(旧:遺留分減殺請求訴訟)を完全解説!

遺留分権利者は、贈与や遺贈(遺言によって財産を取得させること)によって、遺留分の侵害を受けた場合、贈与又は遺贈を受けた人に対して、遺留分侵害額を請求することができますが、相手方が、請求に応じず、さらに、調停も不成立に終わった場合は、訴訟によって遺留分侵害額を請求することになるでしょう。

この記事では、遺留分侵害額請求訴訟について、わかりやすく丁寧に説明します。

是非、参考にしてください。

[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。

遺留分侵害額請求訴訟と遺留分減殺請求訴訟

遺留分とは?

遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった人)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈(遺言によって財産を取得させること)によっても奪われることのないものです。

遺留分侵害額請求訴訟とは?

被相続人が財産を遺留分権利者以外の人に贈与又は遺贈し、遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合、遺留分権利者は、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求することできます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。

そして、遺留分侵害額請求について、当事者間での話合いや家庭裁判所の調停手続によっても合意に至らない場合には、訴訟(裁判)で請求することになります。この訴訟のことを「遺留分侵害額請求訴訟」といいます。

遺留分減殺請求訴訟とは?

遺留分制度については2019年7月1日に法改正があり、改正前は、遺留分侵害額に相当する「金銭」ではなく、遺留分侵害の限度で贈与や遺贈された「財産そのもの」の返還を請求できることになっており、これを「遺留分減殺による物件返還請求」又は「遺留分減殺請求」とよんでいました。

そして、遺留分減殺請求についての訴訟のことを「遺留分減殺による物件返還請求訴訟」又は「遺留分減殺請求訴訟」といいます。

法改正より前に開始した相続については、旧法の適用を受けます。つまり、2019年6月30日以前に開始した相続では「遺留分減殺請求訴訟」が、2019年7月1日以降に開始した相続では「遺留分侵害額請求訴訟」が可能です。

この記事では、改正後の「遺留分侵害額請求訴訟」について説明します。

遺留分侵害額請求訴訟の基本的な流れ

遺留分侵害額請求訴訟の基本的な流れは、次のようになります。

  1. 相続開始
  2. 生前贈与の事実や遺言内容の判明により遺留分侵害があることがおおよそ判明
  3. 遺留分侵害額請求権の行使(配達証明付き内容証明郵便)
  4. 相続人及び相続財産を調査し遺留分侵害額を算出
  5. 遺留分侵害額について協議
  6. 協議成立の場合は和解書(合意書)の取り交わし、協議不成立の場合は、相手方財産の仮差押命令の申立を行い、遺留分侵害額の請求調停の申立て
  7. 調停成立の場合は家庭裁判所が調停調書を作成、協議不成立の場合は遺留分侵害額請求訴訟の提起、前提問題に争いある等で裁判所の勧告により申立てを取下げた場合は前提問題を解決後に改めて調停申立
  8. 訴訟外の和解が成立した場合は和解契約書の取り交わし、訴訟上の和解が成立した場合は裁判所が和解調書を作成、判決が下された場合は上訴又は判決確定

上記の3以降の流れについて説明します。

遺留分侵害額請求権の行使

配達証明付き内容証明郵便で請求することによって、内容と請求日を証拠として残すことができます。

このことは、遺留分侵害額請求権が時効によって消滅することを防ぐために極めて重要です。

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。

なお、この書面には、具体的な遺留分侵害額は記載しなくて構いません。

文例については「遺留分侵害額請求(旧遺留分減殺請求)の内容証明の文例と書式」を参考にしてください。

相続人及び相続財産を調査し遺留分侵害額を算出

相続人及び相続人財産についての調査によって、相続人と遺産の範囲を確認したうえで、遺産総額を評価し、遺留分侵害額を算出します。

遺留分侵害額は、調査によって判明した生前贈与の金額や、遺産の評価方法によって、変わってくるため、相続問題に精通した弁護士に依頼した方が、有利な金額を算出できる可能性が高まるでしょう。

遺留分侵害額について協議

まずは、当事者間で協議します。

弁護士に依頼している場合は、協議に同席してもらったり、代わりに協議してもらうこともできます。

弁護士が介在することによって不毛な感情的な対立を避けることができますし、論理立てて主張を展開することができるため、相手方の納得を得られやすいというメリットがあります。

仮差押え

相手方がすんなりと請求に応じない場合は、相手方の財産の仮差押えの手続きを取るとよいでしょう。

仮差押えをすることによって、相手方が財産を使い込んだり隠したりして、遺留分侵害額を回収できなくなってしまうことを避けることができます。

仮差押えには、担保(保証金)の供託が必要です。保証金の目安は、仮差押えの金額の概ね1~3割程度です。

保証金は、全部勝訴判決が確定した場合や相手方が請求を認諾した場合等は、担保取消手続によって取り戻すことができます。

なお、損害保険ジャパン日本興亜株式会社と支払保証委託契約(ボンド)を結んだ場合は、保証金の供託は不要で、代わりに保証料がかかりますが、保証料は最低10万円と、保証金を供託する場合に比べて小さい負担で済みますが、掛け捨てなので取り戻すことはできません(詳しくは、パンフレット参照)

仮差押えの手続きは、弁護士に依頼にすれば手間なく迅速に進めてもらえるので安心です。

自分で行う場合は、裁判所ウェブサイトのこちらのページが参考になるでしょう。こちらのページを読んでみて、難しそうだなと感じたら、やはり、弁護士に相談することをお勧めします。

協議の成立又は不成立

成立の場合

協議成立の場合は和解書(合意書)を取り交わします。

和解書を取り交わしても、支払いがされないケースもあるので、それだけでは安心できません。

和解内容が守られなかった場合に、すぐに強制執行ができるように、「本契約書に定められた金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した」旨の強制執行受諾文言を記載したうえで、公正証書にしておくことをお勧めします。

弁護士に依頼している場合は、和解書の作成についても抜かりなくやってもらえるので安心です。

不成立の場合

協議不成立の場合は、調停によって合意形成を図ることになります。

調停とは、裁判官1名と調停委員2名(うち1名は弁護士であることが通常)が調停委員会として、論点を整理し、当事者に対して解決のための助言や説得をして、合意を目指して進められる話合いの手続きのことです。

遺留分侵害額請求調停について詳しくは「遺留分侵害額請求調停(旧:遺留分減殺請求調停)を完全解説! 」をご参照ください。

なお、調停についても、弁護士に依頼すると次のようなメリットがあります。

  • 有利な条件で決着できる可能性が高くなる
  • 感情的な対立を避けられる
  • 調停期日を欠席できる
  • 精神的な負担が緩和される
  • 調停申立の手続きや書類の作成・収集も委任できる

調停申立前に、まずは、弁護士に相談することを強くお勧めします。

調停の成立、不成立、取下げ

協議が調わない場合は、前述のとおり、調停を申し立てることになります。

調停が成立した場合、不成立となった場合、そして、取り下げることになった場合について、それぞれ説明します。

成立の場合

当事者が合意に至ると、家庭裁判所が合意内容を記載した調停調書を作成し、調停成立となります。

調停調書には、例えば、次のようなことが記載されます。

  1. 相手方は、申立人に対し、申立人の遺留分侵害額請求権に基づく金○○万円の支払義務があることを認める。
  2. 相手方は、申立人に対し、前項の金員を次のとおり分割して、申立人名義の銀行口座(○○銀行○○支店、普通預金、口座番号○○○○、名義人○○○○)に振り込む方法で支払う。振込手数料は相手方の負担とする。
    • 令和○年○月○日限り、金○○万円を支払う。
    • 令和○年○月○日限り、金○○万円を支払う。
  3. 相手方が前項の支払を怠ったときは、当然に期限の利益を失い、申立人に対して、前項の金員から既払金を控除した残額及びこれに対する期限の利益を失った日の翌日から支払済みまで年14パーセントの割合による遅延損害金を付加して支払う。
  4. 申立人はその余の請求を放棄する。
  5. 申立人と相手方の間には、本調停条項に記載した事項以外、何らの債権債務もないことを相互に確認する。
  6. 調停費用は、各自の負担とする。

相手方が、調停調書に記載された合意内容に反して、支払いを行わない場合は、申立人は相手方財産について強制執行の申立を行うことができます。

不成立の場合

調停委員会が、調停が成立する見込みがないと判断すると、調停は不成立となり終了します。

調停が不成立となった場合、家庭裁判所は、当事者に対して、その旨を記載した通知書を送達します。

調停不成立の通知を受領すると、申立人は、訴訟を提起することによって遺留分侵害額を請求することができます。

この通知を受けた日から2週間以内に訴訟を提起すると、訴訟の提起に必要な収入印紙の金額から、調停申立時に納めた収入印紙の金額を差引くことができます。なお、その際は調停不成立証明書の添付が必要となりますが。この証明書は、家庭裁判所に申請して交付を受けることができます。

取下げの場合

遺留分侵害額を計算するためには、相続人と遺産の範囲、遺言の有効性などの前提問題に争いがない状態になっていなければなりません。

ただし、前提問題に争いがある場合であっても、遺留分侵害額請求調停の当事者だけが相続人であって、かつ、調停おいて前提問題についても協議して合意に至る可能性がある場合においては、調停においてでも前提問題についても協議します。

しかし、調停の当事者以外にも相続人がいる場合や、前提問題についての対立が激しい場合は、家庭裁判所から申立ての取下げを勧告されることになります。

その場合は、申立人は申立ての取下げを行って、前提問題について、協議や訴訟等ではっきりさせたうえで、改めて調停の申立てを行うことになるでしょう。

なお、前提問題の解決のために、次のような訴訟を提起することができます。

争い内容訴訟の例
相続人の範囲相続人の地位不存在確認の訴え
遺産の範囲遺産確認の訴え
遺言の有効性遺言無効確認の訴え

裁判外の和解、訴訟上の和解、判決

調停が不成立となると、訴訟を提起することになります。

裁判外で和解が成立した場合、訴訟上の和解が成立した場合、そして、判決が下った場合について、それぞれ説明します。

裁判外で和解が成立した場合

係争中の当事者が裁判外で、別途協議して和解することも可能です。

その場合、和解内容を契約書にまとめます。

協議の項目でも書きましたが、和解契約書を取り交わしても、支払いがされないケースもあるので、それだけでは安心できません。

和解内容が守られなかった場合に、すぐに強制執行ができるように、「本契約書に定められた金銭債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した」旨の強制執行受諾文言を記載したうえで、公正証書にしておくことをお勧めします。

弁護士に依頼している場合は、和解契約書の作成についても抜かりなくやってもらえるので安心です。

訴訟上の和解が成立した場合

訴訟係属中に裁判官の面前でする和解を訴訟上の和解といいます。

裁判所は、訴訟のどの段階でも当事者に和解を促すことができるとされています。

また、双方の当事者は、和解の意思が固まった場合、裁判所に対して、和解案を定めるよう申し立てることができます。

訴訟上の和解が成立すると、裁判所が和解調書を作成します。

これは、確定判決と同一の効力があり、相手方が和解調書の内容を履行しなかった場合、和解調書をもって強制執行の申立てができます。

判決が下された場合

訴訟で認容判決を得て、その判決が確定すれば、相手方が応じなくても、相手方の財産の差押えを行うことができます。

判決に不服がある場合は管轄の高等裁判所に控訴することからでき、さらに、高等裁判所の判決に不服がある場合は最高裁判所に上告することができます(控訴・上告のことを「上訴」といいます)。

期限内(判決正本が送達された日の翌日から14日以内)に上訴しなかったり、最高裁判所の破棄自判判決や、上告棄却決定がされると、判決が確定し、以降は、不服申立を行うことができません。

訴訟は、一般の方が独力で対応することが調停以上に困難なので、弁護士に依頼することになるでしょう。

調停を経ずに訴訟を提起することもできる

相手方が当初からまったく話し合いに応じる気がない場合等、調停をしても不成立に終わることがわかり切っている場合は、手間を省くために、調停を経ずに、いきなり訴訟をすることはできないのでしょうか。

この点、まず調停の申立てをしなければなれないことになっています。このことを調停前置主義といいます。

そして、調停を経ずに訴訟が提起された場合、裁判所は、原則として、事件を調停に付さなければならないことになっています。

ただし、裁判所が事件を調停に付することが相当でないと認めるときは、調停に付さなくてもよいことになっています。

遺留分侵害額請求訴訟の申立先(管轄裁判所)

遺留分侵害額請求訴訟の申立先(管轄裁判所)は、次のいずれかの地方裁判所又は簡易裁判所です(簡易裁判所は請求額が140万円以下の場合のみ申立可能)。

  • 原告の住所地を管轄する裁判所
  • 被告の住所地を管轄する裁判所
  • 亡くなった人の最後の住所地を管轄する裁判所
  • 当事者が合意で定めた裁判所

裁判所の管轄区域が分からない場合は、こちらのページから調べることができますが、最寄りの裁判所でも教えてもらえます。

遺留分侵害額請求訴訟を有利に進めるためのポイント

遺留分侵害額請求において、しばしば争点となるのは、相続不動産の評価額についてです。

遺産の評価額が高額になればなるほど遺留分侵害額も高額になるので、申立人は遺産が高額になるように評価したく、反対に相手方は低額になるように評価したいものです。

不動産の価額は評価方法によって大きく異なることがあるため、この点が争点になりやすいのです。

遺留分侵害額請求訴訟を有利に進めるためには、自分の主張が合理的であることが裁判官に伝わるように、鑑定書等の資料を戦略的に用意する必要があります。

この点、相続問題に精通した弁護士に依頼しておけば安心です。

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