特別受益の持戻し免除があっても遺留分侵害額請求はできる?
特別受益の価額は、遺留分算定基礎財産の価額に算入されるのでしょうか?
また、持戻し免除の財産の価額は遺留分算定基礎財産の価額に算入されるのでしょうか?
この記事では、以上のような、特別受益と遺留分に関する疑問に、弁護士がわかりやすく丁寧に説明します。
是非、参考にしてください。
[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。
特別受益とは?
特別受益とは、相続人が複数いる場合に、一部の相続人が、被相続人(亡くなった人)からの遺贈(遺言によって財産を取得させること)や贈与によって特別に受けた利益のことです。
特別受益があった場合は、特別受益の価額を相続財産の価額に加えて相続分を算定し、その相続分から特別受益の価額を控除して特別受益者の相続分は算定されます。
このようにして具体的相続分を算定することを特別受益の持戻しといいます。
遺留分とは?
遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。
被相続人が財産を遺留分権利者以外の人に贈与又は遺贈し、遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合、遺留分権利者は、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求することできます。
特別受益の価額は遺留分算定基礎財産の価額に算入される?
特別受益の価額は、遺留分を算定するための財産の価額に算入されるのでしょうか?
この点、相続開始前の10年間にした特別受益に該当する贈与については遺留分を算定するための財産の価額に算入し、10年前の日より前にしたものについては算入しないことになっています。
ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、10年前の日より前にしたものについても算入することになっています。
それでは、どのようなケースが「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき」に該当するのでしょうか?
まず、「損害を加えることを知って」とは、損害を与えてやろうという目的までは必要なく、遺留分を侵害することを知っていれば良いと解されています。
次に、遺留分権利者に損害を加えるかどうか知っていたかの判断にあたっては、当事者の法律の知識の有無を問わず、客観的に遺留分権利者に損害を加えることになる事実関係を知っていれば足りると解されています。
そして、具体的にどの程度の事実関係を認識していればよいかについては、次のような点から総合的に判断されると解されています。
- 贈与財産の全財産に占める割合
- 贈与の時期
- 贈与者の年齢
- 健康状態
- 職業などから将来財産が増加する可能性が少なく、その贈与をなしたら遺留分を侵害するといえたか
例えば、贈与者が高齢だったり、重病だったりといった、ほぼ今後財産が増える見込みはないだろうといえる状況で、財産の大部分を贈与してしまったような場合には、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき」に該当する可能性が高いと思われます。
なお、遺留分権利者が「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした」ことを主張する場合は、遺留分権利者がこれに当たることを証明しなければなりません。
特別受益の持戻し免除とは?
被相続人が遺言などによって特別受益の持戻しを免除する意思を表示した場合は、持戻しは免除されます。
特別受益の持戻しの免除とは、特別受益の持戻しをさせないことです。
特別受益の持戻しが免除されると、特別受益の価額を相続財産の価額に加えることはありません。
持戻し免除の財産の価額は遺留分算定基礎財産の価額に算入する?
被相続人が持戻しを免除する意思を表示した財産についても、その価額は遺留分を算定するための財産の価額に算入することになっています。
どういうことか、次の設例を基に説明します。
- 相続人は、長男、二男、三男の3人
- 遺産額は3000万円
- 被相続人は、相続開始前10年間に、長男に対して、特別受益に当たる9000万円の贈与をした
- 被相続人はこの特別受益について持戻し免除の意思を表示した
この場合、相続人3人の法定相続分は3分の1ずつになります。
遺産額は3000万円で、特別受益の持戻し免除の意思が表示されているため、持戻しはなく、3000万円を3人で按分することになります。
そうすると、それぞれの相続額は1000万円ずつになります。
次に、遺留分侵害の有無を確認します。
前述のとおり、持戻し免除の意思表示があったとしても、遺留分を算定するための財産の価額に算入することになっているため、このケースにおける遺留分を算定するための財産の価額は「3000万円 + 9000万円 = 1億2000万円」となります。
このケースにおける個別的遺留分は、「総体的遺留分2分の1 × 法定相続分3分の1 = 6分の1」となります。
そうすると、3人は、遺留分として、それぞれ、「1億2000万円 × 6分の1 = 2000万円」を取得する権利を有することになります。
長男は、贈与によって取得した9000万円と相続によって取得した1000万円とで「9000万円 + 1000万円 = 1億円」を取得しているので、当然ながら、長男の遺留分は侵害されていません。
一方、二男と三男は、それぞれ1000万円ずつしか取得していないため、「2000万円 - 1000万円 = 1000万円」の遺留分侵害が生じています。
したがって、二男と三男は、長男に対して、それぞれ1000万円ずつを遺留分侵害額として請求できることになります。
まとめ
以上、特別受益と遺留分の関係について説明しました。
生前贈与により遺産があまりもらえなかった場合や、反対に、遺留分侵害額を請求されたという場合は、できるだけ早く相続問題に精通した弁護士に相談することを強くお勧めします。
また、特定の人に多くの財産を遺したいが、遺留分が気になるという方も、一度、弁護士に相談するとよいでしょう。