相続放棄したのに請求が来た!正しい撃退法を弁護士が伝授
相続放棄したのにもかかわらず、相続債権者(亡くなった人の債権者)から相続債務(亡くなった人の債務)の弁済請求があることがあります。
そのような場合の正しい撃退法を弁護士がわかりやすく伝授します。
是非、参考にしてください。
[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。
相続放棄は家庭裁判所での手続きが必要
「相続放棄したのに請求が来た!」と怒っている人の話をよくよく聞いてみると、実は、相続放棄していなかったというケースがあります。
「相続放棄」ではなく、「相続分の放棄」又は「相続分の譲渡」をしてしまっていたのです。
「相続放棄」は家庭裁判所で行う手続きですが、「相続分の放棄」や「相続分の譲渡」は家庭裁判所での手続きは不要です。相続分の放棄は相続分を放棄する旨を他の相続人に伝えるだけで成立し、相続分の譲渡は譲渡人と譲受人の合意だけで成立します。
また、「相続放棄」をすると相続債務を負わずに済みますが、「相続分の放棄」の場合は相続債務から免れることできません。また、「相続分の譲渡」の場合は、相続債務も含めて譲渡されます(つまり、譲渡人ではなく譲受人が相続債務を負うことになります)が、これはあくまで譲渡当事者の関係においてのことで、譲渡人は相続分の譲渡をもって債権者に抗弁することはできず(つまり、譲渡人が債権者から弁済を求められたときに「相続分を譲渡したので譲受人に請求してください」といって弁済を拒むことはできません)、譲渡人が弁済した場合は、譲受人に求償すること(代わりに弁済した分の支払いを求めること)できます。
要するに、相続放棄は、家庭裁判所で手続きをしないと、相続債権者から請求を拒むことはできないということです。
相続放棄できる期間は、原則として、相続の開始があったことを知った時から3か月です。
期限後でも相続放棄が認められるケースもありますが、できるだけ早期に弁護士に相談することをお勧めします。
なお、相続放棄手続きをしていなくて相続債権者から請求が来た場合は、相続債権者と接触する前に、弁護士に相談しましょう。
相続債権者と既に接触している場合でも、やはり、できるだけ早期に弁護士に相談することをお勧めします。
無料相談に応じている弁護士も多数います。
通常は相続放棄の証明書で撃退できる
相続放棄したのに相続債権者から相続債務の弁済請求があった場合は、相続放棄申述受理通知書のコピー又は相続放棄申述受理証明書を債権者に提出しましょう。
相続放棄申述受理通知書は、相続放棄が受理された時に家庭裁判所から送付されているはずです。
相続放棄申述受理通知書は再発行ができないので、原本ではなくコピーを提出しましょう。
原本の提出を求められた場合は、相続放棄申述受理証明書を提出しましょう。
相続放棄申述受理証明書は、相続放棄の申述をした本人が、相続放棄の手続きを行った家庭裁判所にその発行を求めることができます。
家庭裁判所に相続放棄申述受理証明書の発行を求めるときは、「相続放棄申述受理証明申請書」に必要事項を記載して、家庭裁判所に提出します。
申請書の書式はこちらから、記入例はこちらから、閲覧、ダウンロードすることができます。
なお、1通あたり150円の費用がかかります(収入印紙で家庭裁判所に納めます)。
相続放棄申述受理証明書の申請は、本人による申請が原則のため、本人確認書類(運転免許証や住民票等)の提示(郵送の場合はコピーの同封)を求められます。
証明書を窓口で受け取るのではなく郵送して欲しいときには、返信用の切手も併せて裁判所に提出する必要があります。
相続放棄申述受理証明書は、何通でも発行を求めることが可能です。
最初から複数枚発行を申請することもできますし、紛失した場合等に再度発行を求めることもできます。
相続放棄の証明書提出後も請求が続く場合は警察・弁護士に相談
相続放棄申述受理通知書のコピー又は相続放棄申述受理証明書を提出したのに請求が続く場合、その請求は法的根拠に基づかないものであるか、違法なものである可能性が高く、無視しても構いません。
請求が止まない場合や、不安な場合は、警察署に相談するとよいでしょう。
警察が応じてくれない場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
相続放棄の手続きを弁護士に依頼した場合は、その弁護士に相談するとよいでしょう。
相続放棄を弁護士に依頼していない場合は、当サイト等を利用して弁護士を探して相談するとよいでしょう。
多くの事務所が無料相談に応じています。
相続放棄の無効を主張された場合は弁護士に相談
債権者が相続放棄の無効を主張してくることがありますが、債権者は裁判をして相続放棄の無効を確認する判決等を得なければ、正当に請求することはできません。
債権者が相続放棄の無効を主張してきた場合は、裁判になった場合に備えて、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
相続放棄したのに請求に応じてしまった場合の対処法
相続放棄したのに、弁済を約束してしまった場合や、弁済してしまった場合は、どうすればよいのでしょうか?
弁済を約束してしまった場合
相続放棄したのに弁済を約束してしまった場合は、弁済しなければならないのでしょうか?また、相続放棄が無効になって他の債権者に対しても弁済しなければならなくなってしまわないのでしょうか?
この点、弁済を約束してしまっていたとしても、弁済する必要はありません。約束をしただけなら相続放棄が無効になることもありません。
弁済してしまった場合
相続放棄したのに弁済してしまった場合に、返金してもらうことは可能なのでしょうか?また、相続放棄が無効になって他の債権者に対しても弁済しなければならなくなってしまわないのでしょうか?
まず、前段について説明すると、返金を請求できるケースとできないケースがあります。
返金を請求できるケースとしては、詐欺、脅迫又は錯誤によって弁済してしまった場合は返金を請求できますが、このような事情がない場合は、返金を請求することが難しくなってしまいます。
詐欺による場合とは、例えば、債権者が「相続放棄をしても借金は返すべき」等と主張し、騙されて弁済してしまったような場合です。
脅迫による場合は、例えば、債権者から「払わないとどうなるか分かってるな?」等と脅されて弁済してしまったような場合です。
錯誤とは、簡単に言うと勘違いというような意味ですが、相続放棄後の弁済について錯誤の主張は認められにくいことが多いでしょう。
いずれにしても、債権者が返金に応じない場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
また、債権者から返金を受けられない場合は、相続放棄しなかった相続人に求償することができます。
次に、後段(弁済すると相続放棄が無効になるか)については、自分のお金から弁済した場合は、相続放棄が無効となることはありませんが、遺産から弁済した場合は相続放棄が無効となることがあります。
相続放棄したのに税金や社会保険料の請求があった場合
亡くなった人の税金や社会保険料についても、相続放棄した人は納付義務を負いません。
相続放棄したのに税金や社会保険料の請求があった場合は、相続放棄申述受理通知書又は相続放棄申述受理証明書を役所に持参して、相続放棄したことを証明すれば大丈夫です。
また、準確定申告(亡くなった人の所得税の確定申告)についても、相続放棄した人は必要ありません。
なお、相続放棄したのに亡くなった人の税金や社会保険料を納付してしまった場合は、役所に相談すると、返金してもらえることが多いようです。
まとめ
以上、相続放棄したのに相続債権者から相続債務の弁済請求があった場合の対処法について説明しました。
相続放棄後の請求には、相続放棄申述受理通知書のコピー又は相続放棄申述受理証明書を提出し、それでも請求をやめない場合は、必要に応じて、警察、弁護士に相談しましょう。
家庭裁判所での相続放棄手続きをしていない場合は、できるだけ早期に弁護士に相談しましょう。相続放棄できる期間は、原則として、相続の開始があったことを知った時から3か月です。期限を過ぎていても相続放棄が認められるケースもあるので、諦めずに弁護士に相談してみるとよいでしょう。
また、債権者が相続放棄の無効を主張する場合も、裁判に備えて弁護士に相談しましょう。