遺留分を渡さなくていい方法を弁護士が特別に伝授
弁護士には、「自分の死後、こいつにだけは遺産を渡したくない!」とか、「故人がせっかく自分に全財産をくれたのに、他の相続人に遺留分を請求されたくない!」というような、「遺留分を渡さなくていい方法」についての相談が日々寄せられます。
そこで、この記事では、「生前からできる遺留分を渡さなくていい方法」と「相続開始後でもできる遺留分を渡さなくていい方法」について、それぞれ説明します。
是非、参考にしてください。
[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。
生前対策
生前からできる遺留分を渡さなくていい方法には、次のものがあります。
- 遺留分の放棄
- 離婚、離縁、親子関係不存在確認
- 推定相続人の廃除
- 相続欠格
- 早期の生前贈与
- 評価額よりも安価に売る
- 生命保険
- 相続人を増やす
- 除外合意・固定合意
以下、それぞれの対策について説明します。
遺留分の放棄
遺留分の放棄とは、遺留分侵害額請求権を放棄することをいいます。
家庭裁判所に遺留分放棄の許可を申立て、これが認容されると、遺留分を放棄することができます。
申立てができる時期は、相続開始前(被相続人の生前)に限られます。
家事審判申立書には、申立ての理由の記入欄がありますが、この申立ての理由いかんによって、申立てが許可されるかどうかが大きく左右されます。
家庭裁判所は次のような要素を考慮して、遺留分の放棄を許可するかどうかを判断します。
- 放棄が本人の自由意思によるものであるかどうか
- 放棄の理由に合理性と必要性があるかどうか
- 放棄の代償があるかどうか
なお、遺留分を放棄しても相続権は残るので、遺留分放棄者に財産を渡さないためには、別途、遺言等の対策が必要です。
また、遺留分を放棄した人が被相続人よりも先に亡くなって代襲相続が生じた場合でも、代襲相続人は遺留分を主張することはできません。
離婚、離縁、親子関係不存在確認等
遺留分を渡したくない人が相続人でなくなれば、遺留分もなくなります。
その人と婚姻関係にある場合は離婚を、養親子関係にある場合は離縁を、自然血縁がないにもかかわらず戸籍上の実親子関係にある場合は親子関係不存在確認や嫡出否認・認知無効について合意に相当する審判を得るか認容判決が確定することで、相続人ではなくなります。
推定相続人の廃除
推定相続人の廃除とは、遺留分をもつ推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき人)が、被相続人(亡くなった人)に対して虐待をしたり、重大な侮辱を加えたり、著しい非行があった場合に、被相続人が、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することによって、推定相続人の持っている遺留分を含む相続権を剥奪する制度のことです。
注意点としては、廃除を受けた推定相続人に直系卑属(子・孫など)がいる場合は、直系卑属が代襲相続することになり、代襲相続人は遺留分も含めて相続権を代襲します。
相続欠格
相続欠格とは、ある人の相続に関して不正をはたらいた人などについて、その相続について相続人や受遺者(遺言によって遺産を受け取る人)になることをできなくする制度です。
相続欠格者は相続人となることができないので、遺留分も認められません。
代襲相続が生じる可能性がある点については、廃除と同様です。
相続欠格者となるのは、次のいずれかに該当する人です。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
相続欠格により遺留分を含む相続権をはく奪するためには、次のいずれかが必要です。
- 欠格者自身が作成した民法第891条所定の欠格事由(前掲)が存する旨を記した証明書(相続欠格者の実印と印鑑証明書付き)
- 欠格事由を証する確定判決の謄本(確定証明書付き)
早期の生前贈与
遺留分を算定するための財産の価額は、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額 + 贈与した財産の価額 - 債務の全額」で求めることができます。
したがって、「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額 + 贈与した財産の価額」が小さくなれば、その分、遺留分を算定するための財産の価額が小さくなり、遺留分侵害額も小さくなります。
贈与は、次のいずれかに該当するものに限り、その価額を、遺留分を算定するための財産の価額に算入することになっているため、このような贈与を増やすことは、遺留分侵害額を減らすために有用であると考えられます。
- 相続開始前の一年間にしたもの
- 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたもの
- 相続人に対して相続開始前の十年間にしたものであって、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けたもの
以上から、次のいずれかに該当する贈与については、遺留分を算定するための財産の価額に算入しないということがいえます(いずれも、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものでないことが条件)。
- 相続人でない者に対して相続開始の一年前よりも前にしたもの
- 相続開始の一年前より前に相続人に対してしたものであって、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けたものでないもの
- 相続開始の十年前より前にしたもの
したがって、遺留分を渡したくない(できるだけ減らしたい)人がいる場合は、次の点に留意して生前贈与を行うとよいでしょう。
- できるだけ早期に贈与する
※いつ相続が生じるかは誰にも分からないものの、目安としては、遅くとも相続開始の一年前より前になるように(相続人に対しては相続開始の十年前より前がベター) - 相続人よりも相続人でない人に対して贈与する
- 相続人に対する贈与は、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本にあたらないように行う
- 遺留分権利者に損害を加える可能性があったとしても、受贈者にはそのことを知らせない(例えば、財産は他にたくさんあると伝える等)
生前贈与による遺留分対策については「特別受益の持戻し免除があっても遺留分侵害額請求はできる?」も併せてご参照ください。
ただし、生前贈与には、贈与税が発生する点もデメリットとして考えられるため、留意が必要です。
評価額よりも安価に売る
財産を評価額よりも安い価格で売ることによって、遺留分を算定するための財産の価額を減らすことができる場合があります。
当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限っては、その財産の価額から売買価格を控除した額が、遺留分を算定するための財産の価額に算入される場合があります。
したがって、このような対策を行う場合は、買主に対して財産は他にたくさんあるように伝える等、遺留分権利者に損害を加える可能性があることを知らせないように注意しなければなりません。
生命保険
生命保険に加入し、できるだけ多くの財産を取得させたい人を保険金受取人にしておくと、遺留分対策になることがあります。
生命保険金は、原則として、遺留分を算定するための財産の価額に算入しないことになっているためです。
ただし、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となると解するのが相当であり、上記特段の事情の有無については、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきであると解されていることに注意が必要です。
生命保険を活用した遺留分対策については「生命保険金(死亡保険金)が遺留分の対象となることがある!」をご参照ください。
相続人を増やす
相続人が増えれば、遺留分割合が減るケースが多いです。
相続人を増やす方法としては、次のような方法があります。
- 婚姻
- 養子縁組
- 子の誕生
なお、相続人が配偶者と子という組み合わせの場合、子の数が増えても配偶者の遺留分に変わりはありません。
除外合意・固定合意
除外合意・固定合意は、中小企業の事業承継に関する遺留分対策なので、中小企業の経営者でない人は対象外です。
詳しくは、「遺留分に関する民法の特例とは?除外合意・固定合意とは?」をご参照ください。
相続開始後の対処法
相続開始後でもできる遺留分を渡さなくていい方法には、次のものがあります。
- 相続欠格
- 遺留分を渡したくない人に相続放棄させる
- 贈与を受けた人が相続放棄する
- 遺留分侵害額請求をしないように交渉
- 時効の援用(遺留分侵害額請求権・金銭債権)
- 親子関係不存在確認など
以下、それぞれの対処法について説明します。
相続欠格
相続欠格制度は、生前対策の項目でも説明しましたが、相続開始後であっても活用できます。
遺留分侵害額請求をしないように交渉
遺留分侵害額請求権はあくまで権利であって、行使しなければ、遺留分侵害額を取得することはありません。
したがって、例えば何らかの見返りを提供する等して、遺留分侵害額請求権を行使しないように説得することに請求すれば、遺留分を渡さずに済みます。
ただし、一旦納得してくれたとしても、翻意して請求されることも考えられるので、次の項目の相続放棄をしてもらった方が確実です。
遺留分を渡したくない人に相続放棄するように交渉
相続放棄をした人は、初めから相続人でなかった人として扱われるため、遺留分に関する権利も初めから有していなかったことになります。
したがって、やはり何らかの見返りを提供する等して、遺留分を渡したくない人が相続放棄をしてくれれば、遺留分を渡さずに済みます。
なお、相続放棄は撤回ができないので、放棄後に翻意したとしても遺留分を渡さずに済みます。
贈与を受けた人が相続放棄する
そうは言っても、相続放棄を了承してくれるケースは少ないでしょう。
そこで、反対に贈与を受けた人が相続放棄することで、遺留分対策ができる場合があるので、説明します。
「早期の生前贈与」の項目で説明しましたが、贈与財産の価額を遺留分の算定をするための財産の価額に算入すべきかどうかは、相続人に対する贈与と相続人でない人に対する贈与とで結論が異なることがあります。
相続人に対する贈与は、相続開始前の十年間にしたものが遺留分の算定をするための財産の価額への算入対象となりますが、相続人でない人に対する贈与は、相続開始前の一年間に短縮されます。
そして、相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものとして扱われます。
そうすると、相続放棄をして相続人でなくなることによって、贈与日と相続開始日の関係によっては、贈与財産の価額を遺留分の算定をするための財産の価額にしなくて済むようになるのです。
例えば、ある相続が2020年1月1日に開始したとして、2010年1月1日から2018年12月31日までの期間に受けた贈与財産については、相続放棄をすることによって、その財産の価額を遺留分の算定をするための財産の価額にしなくて済みます。
ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与した場合はこの限りではありません。
時効の援用(遺留分侵害額請求権・金銭債権)
遺留分侵害額請求権の時効
遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅します。
相続開始の時から10年を経過したときも、同様です(つまり、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知らなくても10年を経過したら時効によって消滅するということ)。
時効が完成したら、時効を援用することによって、権利が消滅します。
権利者に対して時効を援用する旨の意思表示をすると、時効を援用したことになります。
時効の援用をする場合は、援用したことを後から証明できるように、配達証明付き内容証明で行うとよいでしょう。
金銭債権の時効
遺留分侵害額請求権は、一度行使をすると、金銭債権に変わります。
この金銭債権は、権利を行使できることを知った時から5年間、又は、権利を行使できる時から10年間のいずれか早い方の期間が経過すると、時効によって消滅します。(2020年4月1日以前の金銭債権の場合は、権利を行使できる時から10年間経過する必要があります。)
この金銭債権については、債権者は遺留分侵害額請求を行った時点で権利を行使できることを知っているでしょうから、通常、遺留分侵害額請求を行ってから5年間で時効によって消滅します。
親子関係不存在確認など
被相続人と戸籍上の実子との間に、実は、自然血縁上の親子関係がないというような場合、亡くなった後でも、親子関係不存在確認・認知無効・嫡出否認について合意に相当する審判を得るか認容判決が確定することで、相続人ではなくなります。
相続人でなくなると、遺留分も含めて相続権を失います。
遺留分対策は弁護士に相談すべき
以上、遺留分を渡さなくていい方法について説明しました。