遺留分に関する民法の特例とは?除外合意・固定合意とは?
中小企業にとっては、オーナー社長の世代交代は重要な経営課題でしょう。
この記事では、事業承継を成功させるために経営者が知っておくべき、「遺留分に関する民法の特例」を活用した株式や事業用資産の分散防止策について説明します。
貴社の事業承継の成功と、次世代における貴社の益々発展のためのご参考になれば幸いです。
[ご注意]
記事は、執筆日時点における法令等に基づき解説されています。
執筆後に法令の改正等があった場合、記事の内容が古くなってしまう場合がございます。
法的手続等を行う際は、弁護士、税理士その他の専門家に最新の法令等について確認することをお勧めします。
遺留分に関する民法の特例とは?
遺留分に関する民法特例とは、事業承継における課税上の制約を解決するために「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法)において創設された制度で、この制度を活用すると、後継者を含めた先代経営者の推定相続人全員の合意の上で、先代経営者から後継者に贈与等された非上場株式について、一定の要件を満たしていることを条件に、 ①遺留分算定基礎財産から除外(除外合意)又は ②遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)をすることができます。
なお、遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのないものです。
被相続人が財産を遺留分権利者以外の人に贈与又は遺贈し、遺留分に相当する財産を受け取ることができなかった場合、遺留分権利者は、贈与又は遺贈を受けた者に対し、遺留分を侵害されたとして、その侵害額に相当する金銭の支払いを請求することできます。
除外合意とは?
後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式について、他の相続人は遺留分の主張ができなくなるので、相続紛争のリスクを抑えつつ、後継者に対して集中的に株式を承継させることができます。
固定合意とは?
自社株式の価額が上昇しても遺留分の額に影響しないことから、後継者の経営努力により株式価値が増加しても、相続時に想定外の遺留分の主張を受けることがなくなります。
なお、固定する合意時の時価は、合意の時における相当な価額であるとの税理士、 公認会計士、弁護士等による証明が必要です。
遺留分に関する民法の特例の適用要件
遺留分に関する民法の特例の適用を受けるためには、会社、先代経営者、後掲者が、それぞれの要件を満たしていなければなりません。
会社に関する要件
会社に関する要件は、次の2点です。
- 中小企業者であること
- 合意時点において3年以上継続して事業を行っている非上場企業であること
先代経営者に関する要件
先代経営者に関する要件は、「過去又は合意時点において会社の代表者であること」です。
後継者に関する要件
後継者に関する要件は、次の2点です。
- 合意時点において会社の代表者であること
- 現経営者からの贈与等により株式を取得したことにより、会社の議決権の過半数を保有していること
遺留分に関する民法の特例の手続きの流れ
民法特例を利用するには、適用要件を満たした上で、「推定相続人全員の合意」を得て、「経済産業大臣の確認」及び「家庭裁判所の許可」を受けることが必要です。
<手続きの流れ>
- 株式の生前贈与
- 合意
- 経済産業大臣の確認
※合意から1か月以内に、後継者が単独で行います。 - 家庭裁判所の許可
※経済産業大臣の確認から1か月以内に、後継者が単独で行います。 - 合意の効力発生
経済産業大臣の確認
経済産業大臣の確認は、次の書類を郵送して申請します。
- 確認申請書 ←様式をダウンロード
- 確認証明申請書 ←様式をダウンロード
※確認証明書は家庭裁判所の許可申立てにおける添付書類となります。大臣確認の申請に際して同時に申請しておくと、確認書と同時に交付が受けられます。 - 合意書
- 定款及び株主名簿の写し
- 登記事項証明書
- 従業員数証明書
- 貸借対照表、損益計算書等
- 上場会社でない旨の誓約書
- 印鑑証明書
- 現経営者、推定相続人全員及び後継者の戸籍謄本又は抄本若しくは法定相続情報一覧図
※現経営者については、原則、出生日から合意日までの連続した戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本が必要です。ただし、全ての戸籍の取得が困難な場合は郵送先へお問合せください。 - (固定合意の場合のみ)税理士等の証明書
以上の書類を以下の住所に郵送して申請します。
〒100-8912 東京都千代田区霞ヶ関1丁目3番1号 経済産業省 中小企業庁 事業環境部 財務課 |
申請方法の詳細については、こちらのマニュアルをご参照ください。
また、以下の電話番号から経済産業省の担当部署に問い合わせができます。
家庭裁判所の許可
家庭裁判所は、合意が当事者全員の真意によるものであるかどうかを確認し、そのように認められる場合、許可を行います。
申立方法については、裁判所ウェブサイトのこちらのページをご参照ください。
まとめ
以上、遺留分に関する民法の特例について説明しました。
事業承継については、なるべく早期に対策を開始することが成功の秘訣です。
まずは、事業承継に強い法律事務所に相談してみるとよいでしょう。
事業承継に強い法律事務所では、弁護士だけでなく、会計士・税理士等の事業承継に関する専門家が在籍していることもあり、総合的な相談を行うことが可能です。